情報通信、エネルギー、環境、医療など、社会を支える多くの技術では、より小さく、より高機能で、より省エネルギーなデバイスや材料が求められています。その実現には、新しい物質を見つけその性質を調べることに加えて、物質同士の界面で電子・イオン・光・スピンなどの振る舞いを思い通りに制御することが重要になります。小型化・集積化が進むに連れ、デバイスの性能や信頼性を最終的に決めているのは、バルクではなくナノスケールの「表面」と「界面」である、という場面が着実に増えています。
新しい物質の有力候補として、原子一層から数層程度の厚みを持つ二次元物質は、次世代トランジスタやメモリ、センシング、量子機能デバイス、電池材料など多岐にわたる応用に向けて、世界的に研究が加速しています。代表的な層状物質群だけでなく、ナノリボンやナノチューブといった一次元的な構造、原子層レベルで厚さを制御した超薄膜、二次元物質同士や三次元基板とのヘテロ界面など、多様な低次元構造が同じ土俵で議論されるようになってきました。さらに、積層順序やねじれ角を精密に制御することで、電子相関やトポロジカル状態を引き出す試みも広がっています。
こうした研究において決定的な役割を果たすのが、「表面・真空の科学」に基づく表面・界面の理解と制御です。二次元物質の多くは真空や気相中で作製され、その後、基板・電極・絶縁膜・保護膜などと界面を形成してデバイスとして機能します。真空中のような理想的な環境で見えている物性が、基板との相互作用や酸化、表面吸着種によってどのように変化するのか。安定な二次元物質だけでなく、反応性の高い物質群をどこまで活かせるのか。こうした問いに対して、表面構造・電子状態・化学状態を厳密に解析し、その理解へと導くことができる点が、本会(表面真空学会)に所属する研究者の大きな強みです。
一方で、二次元物質研究の主な議論の場は、物性やデバイス応用を軸とするコミュニティに置かれており、表面・界面の詳細に正面から焦点を当てた議論はまだ十分ではありません。グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドをはじめとする多くの二次元物質は、実験室レベルでは大気中でも扱える材料として広く利用されていますが、その振る舞いが環境や履歴、界面の作り方に敏感であることが意識されつつあります。同時に、シリセン、ゲルマネン、スタネン、ボロフェン、アンチモネン、Bi₂Se₃ など、真空中での生成や界面制御を前提とする物質群やトポロジカル物質も広がりつつあります。大気中での安定性が課題となる系も含め、多様な物質の潜在能力を「表面・界面の設計」によってどこまで引き出せるかが問われています。
二次元物質研究部会は、単一層から多層の二次元物質、超薄膜や一次元ナノ構造、積層・ツイスト構造、さらには三次元基板とのヘテロ界面まで、多様な二次元・低次元系を視野に入れ、とくに表面・界面の観点から包括的に取り扱います。真空や気相中での合成・表面処理に限らず、大気中や他環境での安定化、界面構造や電子状態・化学状態の解明、そしてデバイス機能発現に至るまで、さまざまな段階の研究を行き来しながら、それぞれの研究を位置づけ直していきます。
扱うテーマは、特定の物質や手法に限定されません。物理、化学、材料、エレクトロニクス、量子情報など、多様なバックグラウンドをもつ研究者が、それぞれの視点から「表面・界面をどう捉えるか」を持ち寄ることで、二次元物質特有の課題が解決され、その可能性がさらに拓かれることを期待しています。
また、これから二次元物質や低次元界面の研究を始めようとする学生や若手研究者にとっても、合成・計測・物性理解・デバイス応用といったさまざまな段階の研究に触れ、自分なりの入口を見つける手がかりとなることを願っています。二次元物質や低次元界面に関心を持ち、その中で表面・界面にも目を向けたい方、あるいはそうした視点から新しい展開を探りたい方の参加を歓迎します。