原子一層の厚さを持つ二次元物質は、次世代材料としてエレクトロニクス、エネルギー、センシングなど多岐にわたる分野で注目を集めています。しかし、その構造上、表面や基板との界面が構造や物性、さらにはデバイス特性に大きな影響を及ぼします。このため、「表面・真空の科学」は、基礎研究から応用研究に至るすべての段階で極めて重要な役割を果たしています。
たとえば、グラフェンは大気中で容易に得られ、燃料電池や水素同位体分離デバイスの触媒担持材料、イオン分離膜などへの応用が期待される耐久性の高い材料です。光センサーの実用化研究が進行中であり、ナノリボン化による次世代電子デバイスへの応用可能性も秘めています。しかし、化学気相成長やSiC熱分解による量産は依然として高コストであり、ナノリボンの応用も研究段階にとどまっています。これらの課題解決には、「表面・真空の科学」に基づくブレイクスルーが求められています。
遷移金属ダイカルコゲナイドは、Siデバイスが微細化により直面する短チャネル効果が存在せず、集積化に有利な特性を持っています。imecのロードマップでは2037年の市場投入が予測され、産業界からの期待も高まっています。しかし、デバイスプロセスの確立には、絶縁体形成や電極接合など、「表面・真空の科学」によって解決すべき多くの課題が存在します。
また、ゲルマネンなどの14族二次元物質は、トポロジカル絶縁体として量子コンピュータの実現可能性から注目されています。しかし、多くは大気下で不安定であり、合成や基礎的な物性評価の段階にあります。デバイス化には多くの課題があり、それらの解決には「表面・真空の科学」が不可欠です。
このように、二次元物質は表面科学の重要な研究対象であり、すでに多くの研究が表面真空学会で報告されています。しかし、表面真空学会として、これらの研究を統合し、議論を深めるための場が十分に整備されていません。そこで、二次元物質の「表面・真空の科学」に特化した研究者のための場を設けることで、研究者間の交流促進や共同研究ネットワークの拡大など、多くのメリットが期待されます。物理学会では物性の追究が、応用物理学会ではデバイス化を視野に入れた研究が活発に行われています。表面真空学会が物性からデバイスまでを橋渡しすることで、日本の当該分野をさらに盛り上げる意義があります。このような場には他分野の研究者も参入の可能性があり、表面真空学会にとって新たな発展の機会ともなるでしょう。